邯鄲の枕

昨日の夢のように忘れっぽくなった自分の備忘録

ダーイシュ(「イスラム国」)を知るためにオススメの5冊

フランスの「シャルリー・エブド紙」に掲載されたイスラームの預言者・ムハンマドの風刺画をきっかけにパリで起きたテロ事件に続き、ダーイシュイスラーム国」に拘束されていたとみられる日本人2人が処刑宣告されるという衝撃的な動画が配信されるという事件がおこり、俄にイスラームダーイシュイスラーム国」への注目が大きくなりました。

 

そこでダーイシュイスラーム国」とはなんぞや、を知るためにオススメしたい書籍を紹介したいと思います。

 

ダーイシュイスラーム国」とは?

 

イスラム国の正体 (ベスト新書)

イスラム国の正体 (ベスト新書)

 

著者の黒井文太郎さんは軍事ジャーナリストとしてインテリジェンス関連の著作も数冊ある方です。(奥さんはシリア人だそうです)

本書ではダーイシュイスラーム国」の残虐性、成り立ちと経過、ネット戦略や海外ネットワークについてのみならず、ダーイシュイスラーム国」に対するアメリカの対応などが軍事ジャーナリストらしい冷静な視点で書かれています。また、戦力や兵器などへの言及は著者ならではの内容だと思います。

 

 邦人人質事件についてはTwitterでも所感を述べられています。

 

イスラーム国の衝撃 (文春新書)

イスラーム国の衝撃 (文春新書)

 

 著者の池内恵さんはイスラーム政治思想史と中東の比較政治学・国際関係論を専門とする東京大学准教授で、現代アラブにおける知的事情を論じた「現代アラブの社会思想」(2002年講談社現代新書)では大佛次郎論壇賞を受賞されてます。

本書では、アル・カーイダをはじめとするグローバル・ジハードを出自とし、イラク戦争アラブの春など既存の領域国家の統治力の低下がその揺籃となったという政治思想と政治学の視点からダーイシュイスラーム国」を読み解いています。

また、ダーイシュイスラーム国」アル・カーイダに参加するジハード主義者の行動原理をコーランハディースを引いて説明されており、「ジハード主義者はイスラームを逸脱している」という、よく見られる言説が成立し得ないとする見方は非常に新鮮でした。

論理的で抑制された文章も非常に理解しやすく、ダーイシュイスラーム国」だけではなくアル・カーイダボコ・ハラムといった過激なイスラム主義全体への知見を広げてくれる一冊です。

 

個人的にはこちらが一番しっくりとくる内容でした。

 

邦人人質事件についてもご自身のブログで要点を解説されています。


「イスラーム国」による日本人人質殺害予告について:メディアの皆様へ - 中東・イスラーム学の風姿花伝

 

イスラーム世界と欧米、そして日本の関わり

 著者の内藤正典さんは多文化共生論、イスラム地域研究を専攻とする同志社大学院教授で、ヨーロッパのムスリム移民に関する著作などがあります。

本書ではダーイシュイスラーム国」への直接的な言及よりも日本でのイスラム報道や米国の中東政策、そして既存のアラブ諸国宗教的堕落などをわかりやすい文章で解説しています。日本におけるイスラームや中東諸国に対する見方に一石を投じる内容です。

また、著者やイスラム法学者であるハサン中田師らが中心となってアフガニスタンカルザイ政権(当時)の閣僚とターリバーンのメンバーを招いて同志社にて開かれた和平会議に関しては、日本が出来る国際貢献の新しい道を一つ開いたとも言えます。

 

邦人人質事件についてはTwitterでも積極的に所感を述べられています。

 

イスラーム国」が侵食するイラクとシリア

イラクは食べる―革命と日常の風景 (岩波新書)

イラクは食べる―革命と日常の風景 (岩波新書)

 

 著者の酒井啓子さんはイラク政治研究を専攻する千葉大学教授でイラク戦争の際にはテレビをはじめとしたメディア出演も多かった方です。

本書は出版が2008年とやや古いのですが、米英を中心とした有志連合によるフセイン政権崩壊後のイラクで暫定政府への主権移譲後のイラクが宗派ごとの政治勢力に分裂していく過程や、ダーイシュイスラーム国」の前身であるザルカーウィ率いる「メソポタミアアル・カーイダ」や復興支援のためサマーワに駐留していた自衛隊への現地の反応など実に示唆に富んだ内容です。

現地の食べ物(レシピ付き)を交えてのスタイルは、おそらくはイラク戦争も終わり世間の関心も薄れたなかで編集者の方の苦肉のアイデアだと推察します。

 

NEWSWEEK(日本版)のサイトで連載を持たれてます


中東徒然日記 | 酒井啓子 | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

 

シリア アサド政権の40年史 (平凡社新書)

シリア アサド政権の40年史 (平凡社新書)

 

 著者の国枝昌樹さんは外務省でエジプト、イラク、ヨルダン中東諸国の大使館に勤務され2006~10年までシリア大使を務められた方です。

本書も2012年出版とダーイシュイスラーム国」出現前の書籍ではありますが、「イスラム国」が勢力を伸ばすきっかけとなったシリアにおけるアラブの春~内戦までの過程や、イラク同様に多民族・多宗教の国家であるシリアを外務官僚らしい簡潔で的確に論じています。

また、著者の外交官という経験からのリアルポリティクスな視点は専門家やジャーナリストの方とは違った知見を与えてくれます。

 

今回の邦人人質事件について、ジャーナリストの岩上安身さんによる著者のインタビュー


2015/01/22 「今は、政府の交渉を全面的にバックアップすべき時」 イスラム国邦人殺害予告事件について、岩上安身が元在シリア大使・国枝昌樹氏に聞く | IWJ Independent Web Journal

 

 今回の人質事件で、日本も否応なくグローバル・ジハードと向き合う事を余儀なくされました。

自分に出来るのはまず、知ること。

知ることの積み重ねが、ひいては自分の身を守り、人を救う事が出来ると自分は信じます。

 

(追記2015/2/4):ダーイシュイスラーム国」によって殺害された湯川遥菜さんと後藤健二さんのご冥福をお祈りします。

また、「イスラム国」の表記はムスリムの方々に対する不当な偏見、誤解を与えると考えましたのでダーイシュと変更いたしました。