2016年良かったアルバム10選
2016年も残すところ数日となり、今年の振り返りとして、まずは良かったアルバムを10選。
今年はCDを全く買わず、主にapple musicで聴いていたわけだが、Spotifyの日本でのサービスインも始まり、サブスクリプションサービスが一通り出揃ったという事で「プレイリストで聴く時代がやってくる」的な言説もみられたが、apple musicのプレイリストには今ひとつ興味が沸かず、いわゆる「プレイリスト試聴」は個人発信が伸びてこないとまだまだ普及は難しいのかな、とも思った。(AWAのプレイリストにはそれなりに意欲は感じた。まぁ結局お試し期間でやめたのだが)
なお、縛りとしては今年発売ないし発表されたアルバム(CD、配信問わず)としました。順位はつけておりません。
Ariana Grande 'Dangerous Woman'
前作「My Everything」のお腹いっぱいのPOP感から一転、ミドルテンポやダウンテンポでよりアリアナのボーカルを聴かせるアルバムになり、アイドルからの脱皮を印象付けた。
個人的にはニッキー・ミナージュを迎えたレゲエナンバーの「Side To Side」が何とも心地よかった。
Ariana Grande - Side To Side ft. Nicki Minaj
Underworld 'Barbara Barbara, we face a shining future'
Underworldの「Barking」以来6年振りの新作。かつての高揚感や、目新しさは無いがダークで淡々と重なるGroove感がこの上なく心地よい。
いい歳こいてタコ踊りやってるカール・ハイドがカッコいいのである。
Bruno Mars '24K MAGIC'
今年のベストに本作をあげる人も多いんじゃないかと思う。2016年にこのサウンドを持ってくる感性に驚いたし、またこれに懐かしさではなく新鮮さを感じさせられた事にも驚いた。(もちろん'90sソウルの単なる焼き直しではないのは言うまでもないが)あえて順位をつけるとするならこれが1位。
表題曲のMVのこの「わかってる感」
Bruno Mars - 24K Magic [Official Video]
M.I.A 'AIM'
2016年の世界は一向に解決の目処がたたない、欧州の難民問題、世界中で頻発するテロ、そしてBrexitやトランプ大統領の誕生を産んだポピュリズムがもたらす民主主義の新たな局面など、ポジティブな要素は少なかった。それに対し、音楽を含めたエンタテイメントは、そうした現実から目を背けるように、どこか押しなべて享楽的、または内省的であったように感じる。そんな中、彼女は変わらず世界の現状に抗い続ける、それもただのSNSやメディアと通した発言ではなく、エンタテイメントとして優れた作品でもって闘っている。そんなアティテュード含めて好きなアルバム。
元カレDiploのRemixでの参加や共に南アジアにルーツを持つ元1Dのゼイン・マリクとのデュエットなどショウビズ的な部分のアプローチなんかは上手いな、と。
MV作品として今年のベスト。
DJ SNAKE 'ENCORE'
Major Lazerとのコラボ曲「Lean On」で知ったDJ SNAKEのアルバム。EDMが終わったここ1,2年間集大成的なアルバムとも言えるんじゃないだろうか。今年はこのアルバムをはじめとしたムーンバートン系をよく聴いていたように思う。
「Lean On」同様のドリーミーな感じが心地よい。
DJ Snake - Let Me Love You ft. Justin Bieber
Serebro 'Сила трёх'
Serebroは2010年くらいから追いかけてるロシアのガールズグループ。「Mama Lover」のヒットを受けて日本デビューも果たしたり(案の定アルバム1枚のリリースに終わったが)、「Mi Mi Mi」が日本でも局地的なヒットをしたようでご存知の方も多いんじゃないかと思う。そのSerebroの3rdアルバム。リードシンガーのリェーナ(Elena Temnikova)とナスチャ(Anastasia Karpova)が抜けた事もあり、アルバムは参加メンバーの混在する過渡期的な感じは否めない。今後も生温かく見守りたい。
リェーナ在籍時の最後の曲となった「Я ТЕБЯ НЕ ОТДАМ」。オリジナルメンバーだったリェーナとオーリャ(Olga Seryabkina)の別れを表現しているが、その大仰さが2人の関係を逆説的に示しているような気がするのは穿ち過ぎだろうか?
Sirusho 'ARMAT'
アルメニアの国民的歌姫Sirusho(シルショ)の5枚目のフルアルバム。近年の彼女の傾向である、ナショナリスティックな面が全開となっている。世界で初めてキリスト教を国教とした紀元301年をモチーフに歌った「301」やトルコ(オスマン帝国)によるアルメニア人虐殺を歌った「Kga Mi Or」(英語版の「Where Were You」も収録)そしてナショナリスティック路線の始まりとなったアルメニア民謡とEDMを融合した「PreGomesh」と、お腹いっぱい感はあるが、アートワーク含めて、優れたPOPアートに昇華させている所が、作曲家/デザイナーとしても優れている彼女の真骨頂でもある。
MV含めて民族EDMの最高峰だと思う「PreGomesh」アルバムにはRemix Versionで収録。
Sirusho - PreGomesh | Սիրուշո - ՊռեԳոմեշ
Ahmed Soultan 'Music Has No Boundaries'
apple musicのお勧めで知ったモロッコのソングライター、Ahmed Soultanのアルバム。”SOULTAN"というソングネームがスルタン(イスラム圏の王の称号)とソウルをかけているように、ソウルミュージックに北アフリカの民族音楽のテイストをブレンドした曲で構成されている。モロッコはエジプト、レバノンと並んでアラブのポップシーンに多くの歌手を輩出しているが、彼のようにヨーロッパを主戦場に活躍しているアーティストも少なくない。
英語での歌唱が多く、アラブポップスの濃い中東感が苦手な方にも聴きやすいんじゃないだろうか。
ありがとうapple music。
1曲めの「Afrobian」(アフローアラビアンの意)はフェミ・クティから大御所ブラス奏者のフレッド・ウェズリー、ピー・ウィー・エリスらをフィーチャーした思わず小躍りしたくなる良曲。
Ahmed Soultan "Afrobian" feat Femi Kuti, Fred Wesley, Pee Wee Ellis & Mehdi Nassouli
防弾少年団(BTS)'WINGS'
2016年は久しぶりにK-popが面白かった。ここ数年は離れていたのだが、昨年の4minute「Crazy」あたりのトラップを取り入れた感じからまた気になってきた感じ。元々ボーイズグループはあまり聴いてなかったのだが、この防弾少年団の2ndフルアルバムは楽曲のバラエティさと歌唱力やラップのスキルの高さで聴きやすい一枚。
K-popお得意のフックソングとMajor Lazerっぽいリズム感の程よいブレンド。
방탄소년단 (BTS) ‘피 땀 눈물 (Blood Sweat & Tears)’ MV
宇多田ヒカル 'Fantôme'
「人間活動」を理由に活動休止をしていた宇多田ヒカルの8年ぶりとなるアルバム。衰えを感じさせない歌声はさすが。この数年間で彼女に起きた様々な事(結婚・出産・母の死、、)を作品として昇華させた内省的な内容。椎名林檎とのデュエット曲やKOHHの客演曲はエンタテイメント性には欠ける本作においてメインストリームへのリハビリのようにも感じた。「ポップスター」ではなく、「人間」としての宇多田ヒカルが表現された一枚。次の作品にどういうアプローチで臨むかによってこの作品の評価はまた変わってくるんじゃないかな?
EMIレコードの同期、椎名林檎とのデュエット。昔から感じるのは林檎は宇多田に対して強いコンプレックスがあるんじゃないか、という事。ちょっと言語化するのは難しいんだけど。
宇多田ヒカル「二時間だけのバカンス featuring 椎名林檎」(Short Version)
と、まぁ10作品選んでみましたが、自分的に2016年を振り返るなら
・昨年に引き続きDiplo界隈をメインに聴いていた
・K-popがまた面白くなってきた
・ロシア、トルコ、アラブもののポップスはapple musicのラインナップも充実しているので、より多くの出会いがあった
・今年はアイドルものはそれほど聴かなかった
・デヴィッド・ボウイをはじめ、キース・エマーソン(エマーソン・レイク・パーマー)、川島道行(Boom Boom Satellites)、森岡賢、朝本浩文、、、と好きだったミュージシャンが数多く亡くなったのは残念だった。
といったところでしょうか。
シングル、単曲でよかったものはまた別エントリで紹介しようと思います。
また来年もいい音楽との出会いが楽しみです。
元・紀伊國屋書店店員から見た、渋谷店の「本当は女子にこんな文庫を読んで欲しいのだ」フェア炎上
新年あけましておめでとうございます。
正月早々に紀伊國屋書店 渋谷店が燃えていた。
どうやら渋谷店が行っていた「本当は女子にこんな文庫を読んで欲しいのだ」フェアが炎上のうえ、フェア撤去と相成ったようです。
元・紀伊國屋書店の店員としての視点から今回の出来事について考えてみました。
炎上の経緯などはざっくりとですが下記のまとめ参照
紀伊國屋書店の「本当は女子にこんな文庫を読んで欲しいのだ」フェアがプチ炎上し光速で終了 - NAVER まとめ
お前らに好かれたいがために読むわけじゃねぇんだよ!と言われたいのかな!??ドMなのかな???? pic.twitter.com/dDKDYPhTNz
— eiki (@_e1k1) 2015, 1月 2
上記のツイートに添付されたフェアの画像からフェアの概要を掴んでみたいと思います。
まずはフェアの企画趣旨が記されたヘッダーの文章を全文引用してみました。
「文庫女子」*1という言葉をご存知でしょうか?
書店に最も足を運んでくれる20代~30代の女性に、もっと文庫を読んでもらいたい!という思いをもってこの秋スタートしたばかりの企画なのですが、
悲しいかな、正直、ラインナップがいまいちというか……
もっと女性に力強くアピール出来る本が在るハズだ!と、
当店文庫チームが、女子の意見を一切聞かずに勝手にセレクトしちゃいました。
電車内で、喫茶店で、それこそ、ハチ公前で、
こんな文庫を読んでる女性がいたら、それは、まぁ好きになっちゃうよな、という本ばかり選んでみました。各々の作品のPOPにも是非ご注目ください。
2015年、文庫本をカバンに忍ばせるのが、ホントにおしゃれピープルの最新トレンドになるかはハッキリいって解りませんが、東野圭吾と村上春樹しか知らないっていうのは、やっぱりちょっと勿体無い気がするのです。
そして、”是非ご注目ください”という各々の作品のPOPに目を向けると、写真では以下のようなPOPが添えられている
SFに理解のある女性は100%モテ
オシャレ女子なら北欧ミステリでしょ。
ざっと判別できるフェアの概要はこんなところ。
冒頭から「文庫女子」フェアのラインナップに対して”悲しいかな、正直、ラインナップがいまいちというか……”と切り捨ててます。インディペンデントな書店であれば取次・出版社提案の企画に対してアンチテーゼを示す事も書店のアイデンティティとして問題ないと思いますが、チェーン店であれば、仮に担当者がそう思っていたとしても、「文庫女子」へのアンチテーゼとしてではなく、そういったネガティブな文言を使わない「文庫女子」のオルタナティブとしての提案があるべき姿勢だと思います。
(そもそも「文庫女子」自体の企画に対する批判もありますが、ここではそれには触れません。また、自分も取次・出版社のフェア企画には疑問を持つものも少なくありません。)
”各々の作品のPOPにも是非ご注目ください”というくだりと併せて、全体的にナルシスティックで、マスターベーション的な姿勢がありありと窺われますが、果てには
”こんな文庫を読んでる女性がいたら、それは、まぁ好きになっちゃうよな、という本ばかり選んでみました。”と謳っておきながら、POPでは”SFに理解のある女性は100%モテ”と主客転倒してしまっている文言と鎮火用に投下したツイート
文庫担当の平山と申します。「本当は女子にこんな文庫を読んで欲しいのだ」フェアは私も選書をいたしました。他意はなく、男女別なく面白い本をお勧めしたいという趣旨でしたが、多くの方に不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした。該当ツイートを削除いたします。大変申し訳ありませんでした
— 紀伊國屋書店 渋谷店 (@KinoShibuya) 2015, 1月 2
における”他意はなく、男女別なく面白い本をお勧めしたい”という一文からはフェアの趣旨に関する一貫性の欠片もなく、なんとも雑過ぎる企画だったと思います。
小売業の売場における提案は「共感のシェア」が基本だと自分は考えますので、女性に限定して提案(=共感してもらう)をするのであれば、当然女性の意見は必要ではないでしょうか。
このフェアの趣旨であった「本当は女子にこんな文庫を読んで欲しいのだ」という言葉自体からは、共感して欲しいというより、ただ自分の個人的な願望の吐露にしか聞こえてきません。
そういったテーマで書籍を紹介したいのであれば売場では無く個人のブログで紹介するべき類のものだと思います。
売場は商売をする場所であり、ただの願望を具現化する場所ではないからです。
そして多くの批判の対象になっている”東野圭吾と村上春樹しか知らないっていうのは、やっぱりちょっと勿体無い気がするのです”という一文もまた、配慮に欠けてますね。
仮に「東野圭吾と村上春樹しか知らない」人がこの文章を読んで、紹介されている本を手に取ると本気で思ってるのでしょうか?
「東野圭吾と村上春樹」を「J-POP」や「ハリウッド」に置き換え可能な、よくある視点からのマス批判的な文章です。この文章からは”やっぱりちょっと勿体無い気がするのです”という末尾の表現も含めて担当者の衒学的とも言える姿勢がよく出ていると思います。
また、気になったのはPOPですが、文体やレイアウトなどヴィレッジヴァンガードさんを意識したようなのPOPだと推測されますが、下記のまとめを見る限り、ヴィレッジヴァンガードさんのPOPは他人を傷つけたり、不快にさせたりするような文言はありません。
ヴィレッジヴァンガードのカオスなPOP鑑賞会会場はこちら - NAVER まとめ
今回の渋谷店のPOPはヴィレッジヴァンガードさんのPOPを表層的になぞっただけの稚拙なPOPですね。
紀伊國屋書店では、自分の知る限り、特にPOPの作成においてはガイドラインは存在していません。また仮にあったとしてもそれを店員に周知させているような事もありません。
故にPOPの文言などは作成者のリテラシーに委ねられているのですが、「紀伊國屋書店」のロゴが入ったPOPカードを使ってPOPを作成するという事の意味に配慮が欲しかったと思います。
今回は「プチ炎上」とも言われているように企業の炎上案件としては比較的、小規模なものだった事もあるかと思いますが、Twitterでの謝罪を担当者(おそらくは社員もしくはアソシエイトと呼ばれるアルバイト)に行わせている事も問題かと思います。
炎上とは当事者以外の野次馬からも(それが正当な批判であっても)マウントポジションから言葉のグーパンチを浴びせかけられるものです。(もちろんこのエントリもその一つです)
確かに担当者は思慮の浅さからくる失敗を犯しましたが、必要以上に責められるべきではないと考えます。
ですので、ユーザーへの真摯な姿勢という意味でも、失敗を犯した担当者を守るという意味でも少なくとも店長クラスの責任ある立場の人間が対応してしかるべきだったのではないでしょうか。
テン年代はスマートフォンとSNSの普及によって、誰もが発信できる環境を手にしている年代です。たとえ、限られた空間で行われている事でも、そこに人がいる限り全世界に向けて扉は開かれていますので、今回のような案件はまた発生する可能性は決して低くはありません。したがって企業の側もその事を踏まえて、リテラシーを高める必要があると思います。
今回のフェアの担当の方にはこの失敗は大きな糧になったと思いますので、萎縮する事なく、思慮深く、どんどん本を紹介して欲しいと思います。
紀伊國屋書店を含め、書店チェーンはPOS売上げデータを基にした金太郎飴みたいな品揃えになっているように感じます。
売れているものは勿論必要ですが、それならばamazonや楽天ブックスで事足ります。
本好きの自分がリアル書店に期待するのは偶然の出会いと、いい目利きによって紹介された本との出会いです。
”いい目利き”とは決して「お前らこんな本知らないだろ?」ではなくて「これ面白かったから読んでみてよ」が聞きたいのです。
最後に自分が信頼する目利きによる書評を一冊紹介したいと思います。
お亡くなりになりましたが、ロシア語通訳でエッセイスト、小説家の米原万里さんによる書評集。書評としてだけでなく読み物としても面白い。彼女のもつ豊富な知識が機知に富んだ文章に打ちのめされます。スマホは近くに置いているとポチポチやっちゃいそうなので、要注意です。
また自分が本件を知るきっかけとなったid:pokonan さんのエントリはとても面白いです。おすすめされている本も面白そうです、「海賊女王」「ゆうじょこう」気になりますね。
*1:「文庫女子」とは書店取次のトーハンと出版社12社によるF1層(20~34歳の女性)向けの連動企画。出版社12社と連動し、第1回「文庫女子」フェア開催 - TOHAN website