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邯鄲の枕

昨日の夢のように忘れっぽくなった自分の備忘録

2016年良かったアルバム10選

音楽

2016年も残すところ数日となり、今年の振り返りとして、まずは良かったアルバムを10選。

 

今年はCDを全く買わず、主にapple musicで聴いていたわけだが、Spotifyの日本でのサービスインも始まり、サブスクリプションサービスが一通り出揃ったという事で「プレイリストで聴く時代がやってくる」的な言説もみられたが、apple musicのプレイリストには今ひとつ興味が沸かず、いわゆる「プレイリスト試聴」は個人発信が伸びてこないとまだまだ普及は難しいのかな、とも思った。(AWAのプレイリストにはそれなりに意欲は感じた。まぁ結局お試し期間でやめたのだが)

 

なお、縛りとしては今年発売ないし発表されたアルバム(CD、配信問わず)としました。順位はつけておりません。

 

Ariana Grande 'Dangerous Woman'

デンジャラス・ウーマン~スペシャル・プライス・エディション(初回限定盤)

 前作「My Everything」のお腹いっぱいのPOP感から一転、ミドルテンポやダウンテンポでよりアリアナのボーカルを聴かせるアルバムになり、アイドルからの脱皮を印象付けた。

個人的にはニッキー・ミナージュを迎えたレゲエナンバーの「Side To Side」が何とも心地よかった。

 

Ariana Grande - Side To Side ft. Nicki Minaj

 

Underworld 'Barbara Barbara, we face a shining future'

Barbara Barbara, we face a shining future

 

Underworldの「Barking」以来6年振りの新作。かつての高揚感や、目新しさは無いがダークで淡々と重なるGroove感がこの上なく心地よい。

いい歳こいてタコ踊りやってるカール・ハイドがカッコいいのである。


Underworld - I Exhale

 

Bruno Mars '24K MAGIC'

24K MAGIC

今年のベストに本作をあげる人も多いんじゃないかと思う。2016年にこのサウンドを持ってくる感性に驚いたし、またこれに懐かしさではなく新鮮さを感じさせられた事にも驚いた。(もちろん'90sソウルの単なる焼き直しではないのは言うまでもないが)あえて順位をつけるとするならこれが1位。

表題曲のMVのこの「わかってる感」


Bruno Mars - 24K Magic [Official Video]

 

M.I.A 'AIM'

AIM

 

2016年の世界は一向に解決の目処がたたない、欧州の難民問題、世界中で頻発するテロ、そしてBrexitやトランプ大統領の誕生を産んだポピュリズムがもたらす民主主義の新たな局面など、ポジティブな要素は少なかった。それに対し、音楽を含めたエンタテイメントは、そうした現実から目を背けるように、どこか押しなべて享楽的、または内省的であったように感じる。そんな中、彼女は変わらず世界の現状に抗い続ける、それもただのSNSやメディアと通した発言ではなく、エンタテイメントとして優れた作品でもって闘っている。そんなアティテュード含めて好きなアルバム。

元カレDiploのRemixでの参加や共に南アジアにルーツを持つ元1Dのゼイン・マリクとのデュエットなどショウビズ的な部分のアプローチなんかは上手いな、と。

 

MV作品として今年のベスト。


M.I.A. - Borders

 

DJ SNAKE 'ENCORE'

ENCORE

Major Lazerとのコラボ曲「Lean On」で知ったDJ SNAKEのアルバム。EDMが終わったここ1,2年間集大成的なアルバムとも言えるんじゃないだろうか。今年はこのアルバムをはじめとしたムーンバートン系をよく聴いていたように思う。

「Lean On」同様のドリーミーな感じが心地よい。


DJ Snake - Let Me Love You ft. Justin Bieber

 

Serebro 'Сила трёх'

Сила трёх

Сила трёх

 Serebroは2010年くらいから追いかけてるロシアのガールズグループ。「Mama Lover」のヒットを受けて日本デビューも果たしたり(案の定アルバム1枚のリリースに終わったが)、「Mi Mi Mi」が日本でも局地的なヒットをしたようでご存知の方も多いんじゃないかと思う。そのSerebroの3rdアルバム。リードシンガーのリェーナ(Elena Temnikova)とナスチャ(Anastasia Karpova)が抜けた事もあり、アルバムは参加メンバーの混在する過渡期的な感じは否めない。今後も生温かく見守りたい。

 

リェーナ在籍時の最後の曲となった「Я ТЕБЯ НЕ ОТДАМ」。オリジナルメンバーだったリェーナとオーリャ(Olga Seryabkina)の別れを表現しているが、その大仰さが2人の関係を逆説的に示しているような気がするのは穿ち過ぎだろうか?


SEREBRO - Я ТЕБЯ НЕ ОТДАМ

 

Sirusho 'ARMAT'

Armat

アルメニアの国民的歌姫Sirusho(シルショ)の5枚目のフルアルバム。近年の彼女の傾向である、ナショナリスティックな面が全開となっている。世界で初めてキリスト教を国教とした紀元301年をモチーフに歌った「301」やトルコ(オスマン帝国)によるアルメニア人虐殺を歌った「Kga Mi Or」(英語版の「Where Were You」も収録)そしてナショナリスティック路線の始まりとなったアルメニア民謡とEDMを融合した「PreGomesh」と、お腹いっぱい感はあるが、アートワーク含めて、優れたPOPアートに昇華させている所が、作曲家/デザイナーとしても優れている彼女の真骨頂でもある。

MV含めて民族EDMの最高峰だと思う「PreGomesh」アルバムにはRemix Versionで収録。


Sirusho - PreGomesh | Սիրուշո - ՊռեԳոմեշ

 

Ahmed Soultan 'Music Has No Boundaries'

Music Has No Boundaries

apple musicのお勧めで知ったモロッコのソングライター、Ahmed Soultanのアルバム。”SOULTAN"というソングネームがスルタン(イスラム圏の王の称号)とソウルをかけているように、ソウルミュージック北アフリカ民族音楽のテイストをブレンドした曲で構成されている。モロッコはエジプト、レバノンと並んでアラブのポップシーンに多くの歌手を輩出しているが、彼のようにヨーロッパを主戦場に活躍しているアーティストも少なくない。

英語での歌唱が多く、アラブポップスの濃い中東感が苦手な方にも聴きやすいんじゃないだろうか。

ありがとうapple music。

1曲めの「Afrobian」(アフローアラビアンの意)はフェミ・クティから大御所ブラス奏者のフレッド・ウェズリー、ピー・ウィー・エリスらをフィーチャーした思わず小躍りしたくなる良曲。


Ahmed Soultan "Afrobian" feat Femi Kuti, Fred Wesley, Pee Wee Ellis & Mehdi Nassouli

 

防弾少年団BTS)'WINGS'

2集 - Wings (ランダムバージョン) (韓国盤)

2016年は久しぶりにK-popが面白かった。ここ数年は離れていたのだが、昨年の4minute「Crazy」あたりのトラップを取り入れた感じからまた気になってきた感じ。元々ボーイズグループはあまり聴いてなかったのだが、この防弾少年団の2ndフルアルバムは楽曲のバラエティさと歌唱力やラップのスキルの高さで聴きやすい一枚。

 

K-popお得意のフックソングとMajor Lazerっぽいリズム感の程よいブレンド。


방탄소년단 (BTS) ‘피 땀 눈물 (Blood Sweat & Tears)’ MV

 

宇多田ヒカル 'Fantôme'

Fantôme

「人間活動」を理由に活動休止をしていた宇多田ヒカルの8年ぶりとなるアルバム。衰えを感じさせない歌声はさすが。この数年間で彼女に起きた様々な事(結婚・出産・母の死、、)を作品として昇華させた内省的な内容。椎名林檎とのデュエット曲やKOHHの客演曲はエンタテイメント性には欠ける本作においてメインストリームへのリハビリのようにも感じた。「ポップスター」ではなく、「人間」としての宇多田ヒカルが表現された一枚。次の作品にどういうアプローチで臨むかによってこの作品の評価はまた変わってくるんじゃないかな?

EMIレコードの同期、椎名林檎とのデュエット。昔から感じるのは林檎は宇多田に対して強いコンプレックスがあるんじゃないか、という事。ちょっと言語化するのは難しいんだけど。

宇多田ヒカル「二時間だけのバカンス featuring 椎名林檎」(Short Version)

 

と、まぁ10作品選んでみましたが、自分的に2016年を振り返るなら

 

・昨年に引き続きDiplo界隈をメインに聴いていた

K-popがまた面白くなってきた

・ロシア、トルコ、アラブもののポップスはapple musicのラインナップも充実しているので、より多くの出会いがあった

・今年はアイドルものはそれほど聴かなかった

デヴィッド・ボウイをはじめ、キース・エマーソン(エマーソン・レイク・パーマー)、川島道行Boom Boom Satellites)、森岡賢朝本浩文、、、と好きだったミュージシャンが数多く亡くなったのは残念だった。

 

といったところでしょうか。

シングル、単曲でよかったものはまた別エントリで紹介しようと思います。

 

また来年もいい音楽との出会いが楽しみです。

 

難波ロケッツの思い出

音楽 大阪

なんばの老舗ライブハウス「難波ROCKETS」が今月(2016/2)末で閉店するらしい。

 

 

難波ROCKETSは諸般の事情により2016年2月末日をもって閉店致します。

急な発表になってしまったこと、またそれに伴いイベントをキャンセルせざるを得ない状況になり、
出演者様、お客様、ご協力頂いた皆様には多大なご迷惑をおかけして本当に申し訳ありません。

この場をお借りして深くお詫び申し上げます。

閉店のお知らせ | namba ROCKETS

 

L'Arc~en~Cielがインディー時代に拠点としていた事でも有名な同所ですが、自分にとってのロケッツは、ライブハウスとしてよりもクラブとしての存在でした。

 

ちょうど今から20年程前の1996年頃に当時のバイト先の友人に連れられていったのが、田中フミヤ主催の「CHAOS WEST」でした。

 

当時、「テクノ」といえばジュリアナ東京、trf、オケヒット、みたいなイメージしか持ちあわせていなかった自分にとってミニマル・テクノの音数の少なさは衝撃的でした。

しかも少ない音数でありながら、音の出し入れと反復がもたらす高揚感はこれまでの音楽の楽しみ方を根底から覆すには充分でした。 

 

MIX-UP(4)

MIX-UP(4)

 

ちょうど「CHAOS WEST」が行われていた1996年リリースのDJミックスCD「MIX-UP」。ちなみにこのシリーズは石野卓球ジェフ・ミルズケン・イシイデリック・メイらテクノ界の五虎将軍揃い踏みとでも言えるラインナップ。

 

Techno Sport

Techno Sport

 

 電気GROOVEからジェフ・ミルズアンダーワールドまでまさに「テクノ入門編」ともいえる面々によるコンピレーションアルバム。これでテクノにハマった人も多いのでは。

 

 文字通り当時の自分にとって「聖書」にも等しかったスタジオボイスのテクノ特集号。インターネットがまだ身近ではない時代、こういったディスクガイド特集の紹介文から音を想像→シスコで視聴を繰り返していたものです。

 

そうやってテクノ(デトロイト・テクノミニマル・テクノ)に魅了され「CHAOS WEST」をはじめ南港にあったライブハウス「ベイサイドジェニー」(こちらは2006年に閉館)でのテクノイベントにも通いました。

 

しかしながら「CHAOS WEST」は1997年をもって終了。自分もミニマル・テクノから御三家(アンダーワールド、ケミカルブラザーズ、ダフト・パンク)界隈に興味が移っていった事もあり、難波ROCKETSにも知人のライブで数回足を運ぶ程度になり、ここ数年はせいぜい前を通る程度になってしまってました。

 

難波ロケッツの思い出、それはミニマル・テクノとともにあります。

 

25年間お疲れ様でした。

 

追記:wikipediaにも公式サイトにも記載がないので、憶測の域を出ませんが、「難波ROCKETS」という名称はロック(ROCK)と当時のなんばCITY内にあった定番の待ち合わせ場所であるロケット広場から来てると思いますがどうなんでしょうかね?

 

 

 

 

【しろうと目線】日本vsシンガポール (2018WCアジア二次予選)

サッカー

ハリルホジッチ監督率いる日本代表のアジア二次予選の初戦となったホームでのシンガポール戦ですが、残念ながら0-0のスコアレスドローに終わってしまいました。

 

以下はテレビ観戦したしろうとの備忘録として。

 

youtu.be

 

対戦相手のシンガポール旧東ドイツ出身のベルント・シュタンゲ監督が2013年から率いてます。シュタンゲ監督は過去にはオマーンイラクといった代表チームも率いて事もある、よくいる「アジアを流浪する旧共産圏出身の戦術家」という感じ。

 

ちなみに東ドイツ時代にはマティアス・ザマーを指導していたようです。*1

 

シュタンゲ監督率いるシンガポール代表ですが、メンバーのほとんどはライオンズⅫという国策クラブの所属または出身です。

このライオンズⅫというクラブは非常にユニークで、U-23の選手+オーバーエイジ5枠の構成で、シンガポールの隣国、マレーシアのリーグに参戦しているそうです。

 

www.plus-blog.sportsnavi.com

 

シンガポールマラヤ連邦より独立した後もサッカーではマラヤ連邦の枠組みが維持されていた、というのはちょっと胸熱ですね。

 

旧ユーゴも統一リーグの話がチラホラ出たり消えたりしてますが、どうなんでしょう。 

偶然、6月16日付けの朝日新聞にはこんな記事も出ていましたが。

www.asahi.com

 

話がそれましたが、シンガポール代表は前節でカンボジア相手に4-0と快勝していましたが、色気を出すことなく日本戦では専守防衛につとめます。

 

フォーメーションは4-1-4-1で守備時にはディフェンスラインはやや高めに、MFのラインを低くし狭い2列のラインの間にアンカーが余る形で、ボールホルダーへも激しいプレスは掛けないゾーンディフェンスを敷きます。

攻撃時(もっともその機会は数える程でしたが)はどちらかのサイドに流れたFWにロングボールを出し、同サイドにインサイドハーフと逆サイドのサイドハーフがサポートするスタイルでした。

 

日本はハリルホジッチ監督のコンセプトである縦への早いパスを多用し、シュートまで持っていくのですが、シュート精度の低さや水際でのDFの身体をはったディフェンス、そして当たりまくっていたGKの前に得点を生み出せないまま0-0で前半を終了しました。

 

後半に入っても同様の展開が続き、状況を打開するため、ほぼ前線に吸収されていた香川を下げ、大迫を投入します。意図としてはおそらく大迫にキープさせて周囲のオフ・ザ・ボールの動きを高める意図があったと考えるのですが、次第に大迫も香川同様消えていったように見えます。

次にハリルホジッチ監督は前線が停滞していたため、効果的なパスを出せずにいた、柴崎に変えて原口を投入しますが、なぜか原口はそのまま柴崎の位置でプレー。

原口にはドリブル突破が期待されていると思うのですが、何故なんでしょうかね?これは。

最後に疲労度の高かった宇佐美を武藤に替えますが、結局前半のリプレイを見ているかのような展開で90分を終えてスコアレスドローでした。

 

言い訳できないほどの格下相手という事もあり、スタジアムでは日本代表に対するブーイングも聞こえており、「引いた相手を崩す」といういつもの課題が克服できない、という見方も出来るとは思いますが、そこまで悲観する事もないかと思います。

 

しろうとなりの根拠としては

・他の相手(シリア、カンボジアアフガニスタン)では集中力や技術的に同様の戦術は難しい。

シンガポールはアウェイという事もあり、割り切って専守防衛に徹する事が出来た。

・GKが神がかり的にあたっていた。

という所です。

 

勿論、最終予選に出てきそうなUAE北朝鮮のような中堅クラスの相手にこれをされると致命傷になりかねないので、今のうちに対策は練って欲しいのですが、メンバーはそれほど変わっていないにも関わらず、監督が代わる度に、同じ宿題を毎回だされるのがいつも不思議です。

今回の試合でもザッケローニ時代のような遅攻を試みても良かったのでは、などとしろうと目線では考えてしまうのですが、何か駄目な理由でもあるのでしょうか。

 

「私のサッカー人生で、このようなシチュエーションはない。説明するのが難しい」

www.footballchannel.jp

 

試合後ハリルホジッチ監督はインタビューでこのように語ったそうですが、確かにアフリカやリーグ・アンではここまでベタ引きの相手はなかなかいないと思いますが、

私のサッカー(観戦)人生では、このようなシチュエーションは既視感ありありでした。

 

 

 

 

*1:木村元彦「蹴る群れ」集英社文庫 23p

ダーイシュ(「イスラム国」)を知るためにオススメの5冊

書籍 中東

フランスの「シャルリー・エブド紙」に掲載されたイスラームの預言者・ムハンマドの風刺画をきっかけにパリで起きたテロ事件に続き、ダーイシュイスラーム国」に拘束されていたとみられる日本人2人が処刑宣告されるという衝撃的な動画が配信されるという事件がおこり、俄にイスラームダーイシュイスラーム国」への注目が大きくなりました。

 

そこでダーイシュイスラーム国」とはなんぞや、を知るためにオススメしたい書籍を紹介したいと思います。

 

ダーイシュイスラーム国」とは?

 

イスラム国の正体 (ベスト新書)

イスラム国の正体 (ベスト新書)

 

著者の黒井文太郎さんは軍事ジャーナリストとしてインテリジェンス関連の著作も数冊ある方です。(奥さんはシリア人だそうです)

本書ではダーイシュイスラーム国」の残虐性、成り立ちと経過、ネット戦略や海外ネットワークについてのみならず、ダーイシュイスラーム国」に対するアメリカの対応などが軍事ジャーナリストらしい冷静な視点で書かれています。また、戦力や兵器などへの言及は著者ならではの内容だと思います。

 

 邦人人質事件についてはTwitterでも所感を述べられています。

 

イスラーム国の衝撃 (文春新書)

イスラーム国の衝撃 (文春新書)

 

 著者の池内恵さんはイスラーム政治思想史と中東の比較政治学・国際関係論を専門とする東京大学准教授で、現代アラブにおける知的事情を論じた「現代アラブの社会思想」(2002年講談社現代新書)では大佛次郎論壇賞を受賞されてます。

本書では、アル・カーイダをはじめとするグローバル・ジハードを出自とし、イラク戦争アラブの春など既存の領域国家の統治力の低下がその揺籃となったという政治思想と政治学の視点からダーイシュイスラーム国」を読み解いています。

また、ダーイシュイスラーム国」アル・カーイダに参加するジハード主義者の行動原理をコーランハディースを引いて説明されており、「ジハード主義者はイスラームを逸脱している」という、よく見られる言説が成立し得ないとする見方は非常に新鮮でした。

論理的で抑制された文章も非常に理解しやすく、ダーイシュイスラーム国」だけではなくアル・カーイダボコ・ハラムといった過激なイスラム主義全体への知見を広げてくれる一冊です。

 

個人的にはこちらが一番しっくりとくる内容でした。

 

邦人人質事件についてもご自身のブログで要点を解説されています。


「イスラーム国」による日本人人質殺害予告について:メディアの皆様へ - 中東・イスラーム学の風姿花伝

 

イスラーム世界と欧米、そして日本の関わり

 著者の内藤正典さんは多文化共生論、イスラム地域研究を専攻とする同志社大学院教授で、ヨーロッパのムスリム移民に関する著作などがあります。

本書ではダーイシュイスラーム国」への直接的な言及よりも日本でのイスラム報道や米国の中東政策、そして既存のアラブ諸国宗教的堕落などをわかりやすい文章で解説しています。日本におけるイスラームや中東諸国に対する見方に一石を投じる内容です。

また、著者やイスラム法学者であるハサン中田師らが中心となってアフガニスタンカルザイ政権(当時)の閣僚とターリバーンのメンバーを招いて同志社にて開かれた和平会議に関しては、日本が出来る国際貢献の新しい道を一つ開いたとも言えます。

 

邦人人質事件についてはTwitterでも積極的に所感を述べられています。

 

イスラーム国」が侵食するイラクとシリア

イラクは食べる―革命と日常の風景 (岩波新書)

イラクは食べる―革命と日常の風景 (岩波新書)

 

 著者の酒井啓子さんはイラク政治研究を専攻する千葉大学教授でイラク戦争の際にはテレビをはじめとしたメディア出演も多かった方です。

本書は出版が2008年とやや古いのですが、米英を中心とした有志連合によるフセイン政権崩壊後のイラクで暫定政府への主権移譲後のイラクが宗派ごとの政治勢力に分裂していく過程や、ダーイシュイスラーム国」の前身であるザルカーウィ率いる「メソポタミアアル・カーイダ」や復興支援のためサマーワに駐留していた自衛隊への現地の反応など実に示唆に富んだ内容です。

現地の食べ物(レシピ付き)を交えてのスタイルは、おそらくはイラク戦争も終わり世間の関心も薄れたなかで編集者の方の苦肉のアイデアだと推察します。

 

NEWSWEEK(日本版)のサイトで連載を持たれてます


中東徒然日記 | 酒井啓子 | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

 

シリア アサド政権の40年史 (平凡社新書)

シリア アサド政権の40年史 (平凡社新書)

 

 著者の国枝昌樹さんは外務省でエジプト、イラク、ヨルダン中東諸国の大使館に勤務され2006~10年までシリア大使を務められた方です。

本書も2012年出版とダーイシュイスラーム国」出現前の書籍ではありますが、「イスラム国」が勢力を伸ばすきっかけとなったシリアにおけるアラブの春~内戦までの過程や、イラク同様に多民族・多宗教の国家であるシリアを外務官僚らしい簡潔で的確に論じています。

また、著者の外交官という経験からのリアルポリティクスな視点は専門家やジャーナリストの方とは違った知見を与えてくれます。

 

今回の邦人人質事件について、ジャーナリストの岩上安身さんによる著者のインタビュー


2015/01/22 「今は、政府の交渉を全面的にバックアップすべき時」 イスラム国邦人殺害予告事件について、岩上安身が元在シリア大使・国枝昌樹氏に聞く | IWJ Independent Web Journal

 

 今回の人質事件で、日本も否応なくグローバル・ジハードと向き合う事を余儀なくされました。

自分に出来るのはまず、知ること。

知ることの積み重ねが、ひいては自分の身を守り、人を救う事が出来ると自分は信じます。

 

(追記2015/2/4):ダーイシュイスラーム国」によって殺害された湯川遥菜さんと後藤健二さんのご冥福をお祈りします。

また、「イスラム国」の表記はムスリムの方々に対する不当な偏見、誤解を与えると考えましたのでダーイシュと変更いたしました。

 

 

 

元・紀伊國屋書店店員から見た、渋谷店の「本当は女子にこんな文庫を読んで欲しいのだ」フェア炎上

書店

新年あけましておめでとうございます。

 

正月早々に紀伊國屋書店 渋谷店が燃えていた。

どうやら渋谷店が行っていた「本当は女子にこんな文庫を読んで欲しいのだ」フェアが炎上のうえ、フェア撤去と相成ったようです。

 

元・紀伊國屋書店の店員としての視点から今回の出来事について考えてみました。

 

炎上の経緯などはざっくりとですが下記のまとめ参照


紀伊國屋書店の「本当は女子にこんな文庫を読んで欲しいのだ」フェアがプチ炎上し光速で終了 - NAVER まとめ

 

 

上記のツイートに添付されたフェアの画像からフェアの概要を掴んでみたいと思います。

 

まずはフェアの企画趣旨が記されたヘッダーの文章を全文引用してみました。

「文庫女子」*1という言葉をご存知でしょうか?

 

書店に最も足を運んでくれる20代~30代の女性に、もっと文庫を読んでもらいたい!という思いをもってこの秋スタートしたばかりの企画なのですが、

悲しいかな、正直、ラインナップがいまいちというか……

 

もっと女性に力強くアピール出来る本が在るハズだ!と、

当店文庫チームが、女子の意見を一切聞かずに勝手にセレクトしちゃいました。

 

電車内で、喫茶店で、それこそ、ハチ公前で、

 

こんな文庫を読んでる女性がいたら、それは、まぁ好きになっちゃうよな、という本ばかり選んでみました。各々の作品のPOPにも是非ご注目ください。

 

2015年、文庫本をカバンに忍ばせるのが、ホントにおしゃれピープルの最新トレンドになるかはハッキリいって解りませんが、東野圭吾村上春樹しか知らないっていうのは、やっぱりちょっと勿体無い気がするのです。

 

そして、”是非ご注目ください”という各々の作品のPOPに目を向けると、写真では以下のようなPOPが添えられている

SFに理解のある女性は100%モテ

オシャレ女子なら北欧ミステリでしょ。

 

ざっと判別できるフェアの概要はこんなところ。

 

冒頭から「文庫女子」フェアのラインナップに対して悲しいかな、正直、ラインナップがいまいちというか……”と切り捨ててます。インディペンデントな書店であれば取次・出版社提案の企画に対してアンチテーゼを示す事も書店のアイデンティティとして問題ないと思いますが、チェーン店であれば、仮に担当者がそう思っていたとしても、「文庫女子」へのアンチテーゼとしてではなく、そういったネガティブな文言を使わない「文庫女子」のオルタナティブとしての提案があるべき姿勢だと思います。

(そもそも「文庫女子」自体の企画に対する批判もありますが、ここではそれには触れません。また、自分も取次・出版社のフェア企画には疑問を持つものも少なくありません。)

”各々の作品のPOPにも是非ご注目ください”というくだりと併せて、全体的にナルシスティックで、マスターベーション的な姿勢がありありと窺われますが、果てには

こんな文庫を読んでる女性がいたら、それは、まぁ好きになっちゃうよな、という本ばかり選んでみました。”と謳っておきながら、POPでは”SFに理解のある女性は100%モテ”と主客転倒してしまっている文言と鎮火用に投下したツイート

における他意はなく、男女別なく面白い本をお勧めしたい”という一文からはフェアの趣旨に関する一貫性の欠片もなく、なんとも雑過ぎる企画だったと思います。

 

小売業の売場における提案は「共感のシェア」が基本だと自分は考えますので、女性に限定して提案(=共感してもらう)をするのであれば、当然女性の意見は必要ではないでしょうか。

このフェアの趣旨であった「本当は女子にこんな文庫を読んで欲しいのだ」という言葉自体からは、共感して欲しいというより、ただ自分の個人的な願望の吐露にしか聞こえてきません。

そういったテーマで書籍を紹介したいのであれば売場では無く個人のブログで紹介するべき類のものだと思います。

売場は商売をする場所であり、ただの願望を具現化する場所ではないからです。

 

そして多くの批判の対象になっている東野圭吾村上春樹しか知らないっていうのは、やっぱりちょっと勿体無い気がするのです”という一文もまた、配慮に欠けてますね。

仮に「東野圭吾村上春樹しか知らない」人がこの文章を読んで、紹介されている本を手に取ると本気で思ってるのでしょうか?

東野圭吾村上春樹」を「J-POP」や「ハリウッド」に置き換え可能な、よくある視点からのマス批判的な文章です。この文章からは”やっぱりちょっと勿体無い気がするのです”という末尾の表現も含めて担当者の衒学的とも言える姿勢がよく出ていると思います。

 

また、気になったのはPOPですが、文体やレイアウトなどヴィレッジヴァンガードさんを意識したようなのPOPだと推測されますが、下記のまとめを見る限り、ヴィレッジヴァンガードさんのPOPは他人を傷つけたり、不快にさせたりするような文言はありません。


ヴィレッジヴァンガードのカオスなPOP鑑賞会会場はこちら - NAVER まとめ

今回の渋谷店のPOPはヴィレッジヴァンガードさんのPOPを表層的になぞっただけの稚拙なPOPですね。

 

紀伊國屋書店では、自分の知る限り、特にPOPの作成においてはガイドラインは存在していません。また仮にあったとしてもそれを店員に周知させているような事もありません。

故にPOPの文言などは作成者のリテラシーに委ねられているのですが、「紀伊國屋書店」のロゴが入ったPOPカードを使ってPOPを作成するという事の意味に配慮が欲しかったと思います。

 

今回は「プチ炎上」とも言われているように企業の炎上案件としては比較的、小規模なものだった事もあるかと思いますが、Twitterでの謝罪を担当者(おそらくは社員もしくはアソシエイトと呼ばれるアルバイト)に行わせている事も問題かと思います。

 

炎上とは当事者以外の野次馬からも(それが正当な批判であっても)マウントポジションから言葉のグーパンチを浴びせかけられるものです。(もちろんこのエントリもその一つです)

確かに担当者は思慮の浅さからくる失敗を犯しましたが、必要以上に責められるべきではないと考えます。

ですので、ユーザーへの真摯な姿勢という意味でも、失敗を犯した担当者を守るという意味でも少なくとも店長クラスの責任ある立場の人間が対応してしかるべきだったのではないでしょうか。

 

テン年代スマートフォンSNSの普及によって、誰もが発信できる環境を手にしている年代です。たとえ、限られた空間で行われている事でも、そこに人がいる限り全世界に向けて扉は開かれていますので、今回のような案件はまた発生する可能性は決して低くはありません。したがって企業の側もその事を踏まえて、リテラシーを高める必要があると思います。

 

今回のフェアの担当の方にはこの失敗は大きな糧になったと思いますので、萎縮する事なく、思慮深く、どんどん本を紹介して欲しいと思います。

 

紀伊國屋書店を含め、書店チェーンはPOS売上げデータを基にした金太郎飴みたいな品揃えになっているように感じます。

売れているものは勿論必要ですが、それならばamazon楽天ブックスで事足ります。

本好きの自分がリアル書店に期待するのは偶然の出会いと、いい目利きによって紹介された本との出会いです。

”いい目利き”とは決して「お前らこんな本知らないだろ?」ではなくて「これ面白かったから読んでみてよ」が聞きたいのです。

 

最後に自分が信頼する目利きによる書評を一冊紹介したいと思います。

打ちのめされるようなすごい本 (文春文庫)

打ちのめされるようなすごい本 (文春文庫)

 

お亡くなりになりましたが、ロシア語通訳でエッセイスト、小説家の米原万里さんによる書評集。書評としてだけでなく読み物としても面白い。彼女のもつ豊富な知識が機知に富んだ文章に打ちのめされます。スマホは近くに置いているとポチポチやっちゃいそうなので、要注意です。

 

また自分が本件を知るきっかけとなったid:pokonan さんのエントリはとても面白いです。おすすめされている本も面白そうです、「海賊女王」「ゆうじょこう」気になりますね。


「文庫女子」フェアが色々ひどすぎた - 田舎で底辺暮らし

 

*1:「文庫女子」とは書店取次のトーハンと出版社12社によるF1層(20~34歳の女性)向けの連動企画。出版社12社と連動し、第1回「文庫女子」フェア開催 - TOHAN website